誰の命も大切に

 この頃、命の重さ、大切さを考えさせる大きな記事や出来事が相次いだ。
 13日、弁護士から最高裁判事に就いた大橋正治氏が記者会見で「一つ一つの事件を誠実に扱っていきたい」と抱負を述べた。げに、ごもっとも。だからこそ、このほど(2月20日)、まっとうな情理をもって人の世を慈しむ普通の人なら到底許し難く、国民誰もが死刑を逃れさせるわけにはいかないと考えた、あの残虐この上ない「光市母子殺害事件」の犯人の最終抗告審で上告棄却を決めた最高裁第一小法廷でも、一人の裁判官がなお「死刑回避の事情なしとしない」として死刑反対意見を述べている。人や組織が人の命に関わり預かるとき、幾重にも幾重にも、このように慎重かつ誠実に臨むのは、けだし当然である。
 ちょうど、これと相前後して、天皇陛下の心臓バイパス手術が、それこそ幾重にも幾重にも安全を配慮した組織的な医療計画の中で、成功裏に終わった。国民の一人として、真に喜ばしい。これは単に、患者が国民の多くが敬愛する天皇陛下であるからだけではなく、国民の「象徴」たる天皇に対する施術行為が、すべての国民にもかくあるべしとの最高の医療モデルを「象徴的」に示したことにもなるからでもある。このこと、ここで敢えて強調するのは、医療はなべて、国民すべてにかくあらねばならないはずなのに、実際の医療の現状は、その理念からあまりに遠く隔てているからである。
 畏れ多くも、陛下と全く同じ冠動脈の硬化があって、一昨年、陛下が術前に受けたものと全く同じ心臓カテーテル検査を、さる医療機関で受けた(1泊2日)。そこは、生体肝移植を受ける幾人もの重症患者に対し手術前に高額な「寄付金」の提供を行わせたということで一躍悪名を馳せた医療施設だが、近くの医院の紹介でやむなく行ったものであった……、が、まことにお粗末、驚きと怒りの連続だった。少し中味をあげてみると、
①予定時間が来ても、急用が入った、急患が入ったなどの理由で待たされること2時間、せわしなく検査開始。
②開始後まもなく、どんな処置をし忘れたのか、「あっ、忘れてた」というとっさに漏れた慌て声。検査台の上で、どんな医療ミスが起きるのか、死さえも思い浮かべるほどの不安に落ちた。
③検査終了後その若い担当医師曰く、冠動脈が一本完全に詰まっているから、すぐにでもステントを入れるカテーテル治療をしないと命が危ないと脅迫的態度。
④翌朝、検査後のCT検査等の結果、脳に血栓が飛んで,脳梗塞の発症が判明。少し口元が歪みかけている。このまま口元がゆがんだらどうするのかの質問に対し、「リハビリするよ」と何の惑いもない返事。
 結局、この若い医師にとって、こちらは腕を磨く格好の患者以外の何者でもなかったわけだが、さてこの問題はいずれきちんと文章上で精算するとして、一体、医師というもの、どうしてああも不遜でいられるのだろうか。たまたま、陛下のニュースの合間を縫うようにして、ゴルフを続けるために前立腺がんの手術を拒否し、昨年末に苦しみの中で亡くなったゴルフの杉原輝男氏の受診場面が放映されたが、これも驚きである。その医師の姿は写されなかったが、その横柄な態度には言葉もない。
「痛い?」と問うて、杉原氏がうなずき返すと、「ああ、そうだろうね」。テレビカメラが入っているというのに、この無礼で乱暴なもの言い方。丁寧語一つ使えないのか。こんな医療現場の有様だから、どうせ死期は誰にもくるからと、医者の不遜に身をゆだねることなく、死を迎える人も出るのだろう。その人柄についてはけっして好感を持ってはいなかったが、脚本家の故和田勉氏もその一人かもしれない。氏は、食道上皮がんと診断されても、手術や延命治療を行わず、苦しみの闘病生活の末を自然死で終えている。真似したくとも自分にはできないと、痛く感動させられた。元総理・田中角栄氏は脳梗塞で倒れ、政界を引いた。その角栄氏がリハビリ施設で「田中さーん」と呼ばれ、単なる無力の老人として余りに軽々無残な取り扱いを受ける様を見て、見舞いに訪れた娘の田中真紀子氏が激怒し、早速にも引き取り、困難なリハビリを自宅で行うに至った。これも感動の話である。
 達観して自然死を迎える、あるいは自らの力で、介護の環境を整える。そうありたいものである。が、誰もが皆、力強く、経済的にも恵まれているわけではない。特別な人しか、思うような人生の終末を迎えることができないのも事実である。冷ややかな医療現場に大きな不満を漏らしつつ、しかしあきらめの境地で次の世に旅立っていった友人の言葉が、昨日のことのように思い出される。「どんな医者や看護師でも、その世話になることなく死んでいくことは、結局できないんだよね」。
 此度の東日本大震災の最中に、人命救助に献身する医師・看護師の姿に感動もした。しかし、医療現場の底辺には、こうした切ないまでに悲しい無残な現実もまた、存在しているのである。遠くは娘に、近くは私に、命こそ奪われなかったが、生態実験的無謀医療を体験した身からは、思わず、誰の命も大切に、と声を漏らすのである。
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宗内 敦(カラーピラミッド)

Author:宗内 敦(カラーピラミッド)
教育・文芸同人誌『琅』発行人
「書肆彩光」代表者
日本教育心理学会会員
日本ペンクラブ会員
”下記の著、拍手・コメントを頂戴した方に贈呈いたしたく。ご希望あれば、ご連絡下さい。”
 ☆『二言、三言、世迷い言』(書肆彩光 1012)
 

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