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浅田真央を讃える 乾坤一擲、阿修羅の舞―うるわしき世界一のアスリート

 ソチオリンピック、女子フィギュアスケートの浅田真央選手が、健闘むなしく華々しく散って果てた。前半SPで信じられないミスを連発して上位選手との間に絶望的な得点差があるなかで、それをものともせず、後半フリー演技で乾坤一擲、歴史に残る舞を演じて観る者すべての心をその奥底から揺さぶったが、全体第6位に敗れ去った。しかし、その演技たるや、たおやかにして優美、なお力強く幽玄にして荘厳―。演技するその顔面(かおも)からは、興福寺の阿修羅像がいのちを受けて踊るが如く、まさに阿修羅の舞、魂の舞だった。ひたすらスケート道の奥義を究めんとしていた身には、演技を終えた瞬間の達成感と満足感はいかばかりか。彼女は胸底からこみ上がる万感の思いを必死にこらえ、押し寄せる歓喜と号泣感を懸命に押さえて、しばし涙し、一瞬翻って微笑んだ。前回のバンクーバーオリンピックから彼女が歩んできた労苦の道を知らずとも、誰もが皆、共感し、共に泣き、共に快哉を叫んだであろう感動のシーンだった。

浅田真央(2/21 日経新聞)

 思えば浅田真央は、オリンピックをよすがに、フィギュアスケート道の真髄を究めんとしていた。勝敗を超え、相手は己の心のみと決めて、トリプルアクセルを回避して連続3回転ジャンプを選択するなどの、勝つため、得点を上げるための姑息な手段をとらず、トリプルアクセルを極みにすべてのフィギュア技術を取り入れるプログラムをもって、ひたすら心技体を磨いてきた。故にこそ、フリー演技を成功裡に終えた時、悟りを得た菩薩のごとき心境に達したに違いない。その後の、インタビューに応じるときの、すでに勝者とか敗者の次元を超えたあの穏やかな微笑みを見れば、それは瞭然。そうした、ある意味、達観の境地にいる彼女に向かって、これがマスコミというものか、NHKのインタビュアーがぶしつけにも、「SP上位者達のフリーの演技をどのような気持ちで見ていたか」と問わずもがなの質問をぶつけたものである。
 たしかに、SPで大失敗したとは言え、フリーとの合計点は200点に近く、グランプリ大会など並の競技会では容易には出せない高得点ではあった。もし、後に演技する選手達が浅田真央の得点を意識して萎縮したら、彼女が金メダルを含むメダル圏内に浮上することもあり得ないことではない。そうしたケースはこれまで幾度も見られている。かくして筆者もそれを期待し、テレビ観戦中、とりわけユリア・リプニツカヤ、カロリーナ・コストナー、アデリナ・ソトニコワ、キム・ヨナなどの有力選手の演技中には、恥ずかしながら「転べ、転べ」と喉元近くで声を上げ続けていた。つい先日、長野オリンピックでは負傷して補欠に回り、仲間の大活躍を悔し涙の中で眺めていたジャンプ競技の葛西紀明選手(41歳)が銀メダルを獲得して一躍時の人となったが、無情なマスコミ人はそこでも同じような質問を浴びせていた。「長野オリンピックの時、大活躍の仲間達をどのような思いで見ていたか」。それに対して葛西選手は「野球で代打者を出されたら、下ろされた選手の誰も代打者のヒットを望みはしない」といった意味内容で巧みにかわし、これはこれで良しである。けれどもしかし、浅田真央はためらうことなく、次のように述べた。「がんばれ、がんばれ」と応援していました」。
 勝負の垣根を超え、フィギュアスケートの真髄に迫ることを無上の目標とし、争う仲間を共に道を究める同志と見立てる心境にいなければ、とても言える言葉ではない。嗚呼、彼女はすでに、アスリートの域を超え、斯道の極美を探究する芸術家の世界に到達した、まさに、うるわしき世界一のアスリートである。(了)

* 共感くださったときには、拍手を下されば、有難く存じます。              


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宗内 敦(カラーピラミッド)

Author:宗内 敦(カラーピラミッド)
教育・文芸同人誌『琅』発行人
「書肆彩光」代表者
日本教育心理学会会員
日本ペンクラブ会員
”下記の著、拍手・コメントを頂戴した方に贈呈いたしたく。ご希望あれば、ご連絡下さい。”
 ☆『二言、三言、世迷い言』(書肆彩光 1012)
 

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