いじめ、パワハラ化する大学中枢―都留文科大学の教授停職処分に見る

  国の方針に基づき、国公立の大学が次々法人化されていった。理事会が設けられ、学長の権能が強化される一方、教授会の権限が弱められた。ある意味、こうした‘改革’が大学のよりよき発展を目指すものであることは間違いないものとしても、なにごとも功罪は相半ばするもの、学長を含む理事会を柱に大学中枢が権力化して教員の教育・研究活動を様々な面で制約するなど、様々な弊害が惹起することは当初から予想されることではあった。その懸念を証明する出来事が、私がかつて在職していた大学(都留文科大学)でも、あるまじき事件として発生した。
  一昨年(2012年)の6月、ネット上で下記のような記事を見て驚いた。

「都留文科大(都留市)は28日、同大の文学部初等教育学科の男性教授(65)が20代の女子学生にセクシュアルハラスメントなどの行為をしたとして、この教授を29日付で停職1カ月間の懲戒処分とすると発表した。同大によると、教授は昨年6月ごろ、学生が体育の授業を2回欠席したことを受けて研究室に呼び出し、「授業に出席しないと単位は出ない」「卒業できない」などと話した上で、デートに誘うなどしたという。更に、別の20代の女子学生には昨年6月、体育の授業で体調不良を訴えていたにもかかわらず、見学するよう指示。学生が具合が悪くなったため帰ろうとすると、「単位をやらない」など言って精神的な圧力をかけるアカデミックハラスメントを行ったという。いずれの学生も昨年6~7月に同大の人権委員会に相談し、ハラスメント調査委員会が調査していた。調査結果を受けて、今年4月から教授が授業を受け持たないようにしていた。教授はいずれの発言も否定している。同大の西室陽一理事長は「教育を行う立場にある者としてあるまじき行為。今回のような事態が発生しないよう全力で取り組む」とコメントを出した。」(毎日新聞)

 氏名・年齢の記載は無くても、当該者が誰かはすぐに分かった。私が在職していた頃にも、権力的志向の強い向きから何かと不当に取り沙汰されていた体育系教授である。さっそく電話で確かめてみたところ、“事件”は学生に対する教授の教育的指導を真逆に意味づけ、セクハラ・アカハラのレッテル貼りした悪質なでっち上げ事件であると確信された。それからほぼ半年、定年退職を間近に控えた昨年1月、教授は停職処分の無効確認と慰謝料など約570万円の損害賠償を求める訴えを甲府地裁に起こした。これもまた、ネット上で知ったのであったが、改めて聞けば、授業・講義が剥奪される屈辱のなかで、学長からは退職願を出してはどうかと打診され、副学長からは、学生たちの強い要望に応えて行った柔道の自主指導を授業権限なしとして止めさせられる等、“冤罪”処分に耐える身の堪忍袋の緒が切れた末の提訴であった。
 不当な処分に耐えていた身に、脅迫・強要罪にもあたる非道な仕打ちである。“権力者”達のなんたる“パワハラ行為”。ちょうど主宰する教育・文芸同人誌「琅」25号の編集を終えた直後だった。義憤に駆られて思わず筆が走り、私は、以下の文章を枕に、いじめ・パワハラ時代を憂える後書きを書いた。

 「学校・職場・スポーツ関連集団等々、社会のあらゆるところで、いじめ・意地悪が大手を振って横行するパワハラ時代である。パワハラは、同じ〝悪〟の中でも、いつも言い訳を用意して正当性を主張する最も忌むべき陰湿で卑劣な犯罪であるが、これを楽しむ者達は、被害者の苦しみが増し、果ては精神障害に追い込まれ、自殺に至っても、ほとんど反省するところがない。それどころか、相手の苦痛が深まるほど、我が意を得たりとにんまりなのである。かつて私が在職した大学では、大学中枢からのパワハラによって、か弱き女性研究者が統合失調症になり、次には幻聴・妄想などの症状を理由に退職に追い込まれ、やがて孤独の中で世を去った。世の中には、類似のケースも決して少なくはないだろう。今またその大学では、ある教官に対して、学生へのいわれなきパワハラ疑惑を押しつけて停職懲戒処分を与え、係争が裁判所にまで持ち込まれている。折しも、やられたら「倍返し」でやりかえすという単純明快な痛快ドラマ「半沢直樹」(TBS)が大ヒット中であるが、これはこのドラマを見て抑圧された攻撃欲求(復讐欲求)を代償的に満足させる人達、即ちパワハラ被害者が世の中にどれほど多く存在するかを象徴的に示す現象であろう。……」

 少しでも慰めになればの思いで書いた、教授への応援歌でもあった。それがこのほど(14.2.25)、当然と言えば当然な、教授の訴えを是とする判決が甲府地方裁判所で下った。ネット上で、「労政時報ニュース」が以下のように伝えている。

 「女子学生に対するアカデミックハラスメント(アカハラ=指導的立場を利用した嫌がらせ)などを理由にした停職処分は無効だとして、都留文科大の元教授の男性(66)が大学を相手取り、処分の無効や慰謝料などの支払いを求めた訴訟の判決が25日、甲府地裁であった。佐久間政和裁判長は「教授の行為がアカハラに該当するとは言い難い」として停職処分を無効とし、停職時の給与と慰謝料約115万の支払いを命じた。
 元教授は在職時の2012年6月、女子学生が体育の授業で体調不良を訴えても早退させなかったり、別の女子学生をデートに誘ったりしたとして、大学から停職1カ月の処分を受けていた。元教授は訴訟で、デートに誘ったことなどを否認し「女子学生の話は信用できない」と主張した。
 佐久間裁判長は判決で、女子学生の話について「全体として裏付けを欠き、直ちに信用することはできない」と元教授側の主張を認め、「仮にアカハラに該当したとしても、処分が相当とは認められない」と指摘した。」

 人権を守る司法の砦の、誰にも明快な裁きである。私は休心し、この判決を受けて大学が真摯に反省して、
 ① 教授に対していかなる謝罪をするか、
 ②“冤罪”を作り上げた関係者をいかに処分して自浄作用を示すか、
 を見守ることにした。ところが、大学側は、控訴期間切れの前日(14.2.10)、本件の控訴を発表した。しかも、驚くべきコメントを添えての上である。「一審において主張が認められず残念。控訴審に向けて万全を期して臨みたい(大谷理事長)」(毎日新聞)。
 一体、万全を期するということはいかなることか。教育者としての名誉を毀損し、一生を台無しにしかねない「停職処分」を万全ならぬ安易の中で軽々に行い、また裁判を受けて立っていたのか。あるいは、向後はいまさら尤もらしい冤罪証拠を捏造して裁判に立ち向かうとでも言うのか。おそらくその二つの意味をこもごもに含んだコメントだと推測されるが、この人権意識の希薄さには、ひたすら驚かされる。
 ここまで来れば、あとは高等裁判所の厳正なる控訴審判決を待つ以外に道はない。しかし、ことは重大である。裁判の結果は、一つには、とかく大学中枢の権力化をもたらし、例えば、いずれも大学側が敗訴した「金沢大出勤停止処分事件(2011.1)、長崎県立大学懲戒処分事件(2013.7)、北海道教育大学旭川校不当解雇事件(2014.2)」のごとき不当な懲戒を誘発して教員の教育・研究活動を疎外しやすい大学法人化の意味を根本から問い直す一般的な問題を、二つには、何よりも人権意識を教え込まなければならない教員養成大学として名声を馳せてきた都留文科大学の存在意義を問い直す個別的問題を、それぞれ提起することになる。本件の行方は、関係者のみならず、広く教育の世界に大きな影響を及ぼすことになるだろう。

(追)
 この一文は、もはや単なる応援歌ではない。冤罪を晴らさねばならぬ後輩教授への支援歌である。願わくは、ことが大きくなる前に、伝統ある教員養成大学にふさわしい心ある組織体として、大学がより内省し、反省し、控訴を取り下げる等して教授への謝罪を果たし、和解の道を探ることである。


* 世の中のためによかれと思いつつ書いています。共感くださったときには、拍手を下されば、有難く存じます。
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No title

判決を覆すだけの証拠を大学側が持っているのでしょうか。それとも、裁判を長引かせて原告を痛めつけ、社会活動から締め出すことをねらっているのでしょうか。都留文科大学に対する社会的な評価を貶めるようなことをしないよう、大学側はすべきでない。なによりも原告は、控訴に対してひるまず毅然として戦いを続けてほしい。一度、裁判の資料を調べてみたい。と、ブログを読んで思いました。(大宮純)

No title

冤罪は極めて悪質な犯罪である。数年前、防衛大の教授に対する痴漢冤罪事件が報道された。電車内での携帯電話を注意したところ、その女性から”痴漢”の訴えをされたものだった。冬の満員電車で”局部”を押し付けられた、と訴えられた冤罪事件もあった。主観的な”被害感”を扱う者と機関には、これを受け止める相応の力量と、客観性に基づく厳正な視点で対処することが求められる。

有罪判決が出てしまいました。

「卒業が危ない」→デート 都留文大元教授、「アカハラ停職」は有効
http://www.iza.ne.jp/kiji/events/news/151019/evt15101919260035-n1.html
見解をお願いいたします。

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プロフィール

宗内 敦(カラーピラミッド)

Author:宗内 敦(カラーピラミッド)
教育・文芸同人誌『琅』発行人
「書肆彩光」代表者
日本教育心理学会会員
日本ペンクラブ会員
”下記の著、拍手・コメントを頂戴した方に贈呈いたしたく。ご希望あれば、ご連絡下さい。”
 ☆『二言、三言、世迷い言』(書肆彩光 1012)
 

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